「脱毛症」という言葉をそのまま解釈すれば、毛が脱落するという意味です。でも、私たちは普段「脱毛症」を、もっと広い意味で使っています。
男性ホルモンが原因で毛が細く短くなり、主に前髪や頭頂部がハゲているように見えるびまん性の男性型脱毛症、限定された部分だけで髪が抜け落ちる円形脱毛症。どちらも脱毛症といわれますが、内容は全く異なります。
今回は、本来の意味での脱毛が起きる「円形脱毛症」について考えてみます。
毛髪が完全に抜け落ちる円形脱毛症
その名称のとおり、毛髪が脱落してなくなった部分が丸くコインのような形なので、「10円ハゲ」とも呼ばれます。
脱毛している部分には毛が一切なく、毛穴さえも見えない、いわゆる〝つるっパゲ〟状態です。
丸く脱毛するのは円形脱毛症の基本型
円形脱毛症という名前がついていも、あらわれる症状が全て円形というわけではありません。
丸いコインのような脱毛の形は、円形脱毛症の基本型です。円形脱毛症の脱毛のパターンは、円形以外にもいくつかあります。
円形脱毛症の病型
1.単発性・通常型
基本とされている病型です。丸くコインのような形の脱毛部が、1、2カ所できます。
2.多発性・通常型
単発性と同様の丸い形の脱毛部分が、3カ所以上できます。
3.蛇行性
髪の生え際が、蛇行するように帯状に脱毛します。円形脱毛症には珍しい型です。
4.全頭型/全身型(汎発型)
頭全体の髪の毛が全て脱毛してしまうのを全頭型といいます。全頭に加えて、眉毛や脇の毛などの全身の毛が脱毛してしまうのを汎発型といいます。
自己免疫疾患で毛髪は全て休止状態に
自己免疫疾患とは、どんなものなのでしょう。
人を含むさまざまな生体には、有害と思われる物質や細菌、ウィルスなど、自分の中には存在しないものを認識すると敵とみなし、攻撃して排除するという自己防衛本能が備わっています。それが免疫機能です。
この免疫機能が、一部でも正常に作動しないところがあると侵入物を敵か味方か正しい判断ができなくなります。
そして、自分の体の組織の一部であるものを敵と認識し、攻撃してしまうことがあります。これが、自己免疫疾患です。
円形脱毛症は、自己免疫疾患の免疫細胞が自分の体の一部である毛包を誤って敵と認識し、攻撃することで発症します。
日本人の髪の毛は、およそ10万本あるといわれています。
髪の毛は一定の時間がたつと自然に抜け落ち、そこから新しい毛が生えてきます。ヘアサイクルは、個人差はありますが、3〜6年の周期で繰り返されています。また、毎日抜け落ちていく髪の毛は、50〜80本といわれています。
このヘアサイクルとは関係なく、免疫細胞に攻撃された毛包は炎症を起こし、毛は萎縮して抜け落ちてます。そして、免疫細胞の攻撃がさらに続くと新しい毛は生えてこなくなり、毛穴は閉じてしまいます。ヘアサイクルは完全に崩壊しているのです。
円形脱毛症で脱毛している部分には、全く毛髪がありません。そして、毛穴は1つ残らず縮んで、休止期に入っています。
ストレスが免疫異常の誘因になることも
円形脱毛症の原因はストレスではないかと、よくいわれます。
確かに強いストレスを感じたときに、円形脱毛症を発症する人はいます。しかし、日本皮膚科学会のウェブサイトには、ストレスと円形脱毛症が同時に起きたり、明らかに関係がありそうなケースはそれほど多くないと記されています。
とはいっても、強いストレスを感じることで交感神経に支障をきたし、頭皮への血流が悪くなって十分な栄養が毛根に届かず、脱毛を発症している可能性がないとはいえません。
人によっては、ストレスが免疫異常を起こす誘因になっていることもあるでしょう。
出産後の女性の抜け毛が円形脱毛症に発展することがよくありますが、この場合は、出産が強いストレスとなって自律神経が乱れ、女性ホルモンのバランスが崩れたことが誘因になっていると思われます。
また、アトピー性皮膚炎や花粉症といったアレルギー疾患のある人や、ほかの自己免疫疾患にかかったことのある人は、円形脱毛症を発症しやすい体質かもしれません。
しかし、以上のような誘因がなくても発症するのが円形脱毛症なのです。
年齢、性別、地域も問わず発症する脱毛症
円形脱毛症は、小児から大人まで、あらゆる年齢で発症します。また、男性、女性も関係なく発症します。
はっきりと遺伝病とはいえませんが、発症しやすい体質が遺伝することは知られています。
人口の1〜2%で発症し、体質が遺伝する
円形脱毛症が発症する頻度は、人口の1〜2%程度と推測されています。日本中どこでも同じで、アメリカでも同様だそうです。
そして、発症する人の2割くらいにあたる人に、血縁関係のある家族の中に円形脱毛症がみられるといいます。
欧米で行われた研究によって、一親等以内に円形脱毛症を発症している人がいる場合は、そうでない人に比べて、円形脱毛症を発症する可能性が10倍にもなるということがわかっています。
ただし、親が円形脱毛症を発症したからといって、必ずその子どもも円形脱毛症を発症するということではありません。
再発が多く、爪の変形も症状の1つ
円形脱毛症は、発症する4分の1が15歳以下で初めて発症しています。
円形脱毛症は年齢や性別に関係なく発症し、大人も子どもも、女性も男性も、症状の程度や症状に、それぞれの性別や年代で特徴があるわけではありません。
小児でも、大人と同じようにひどい全頭型や全身の汎発型が多くみられます。
アトピー性皮膚炎や甲状腺の病気を伴っている人もいますが、円形脱毛症とこれらの病気は直接的な関係性はないといわれています。ただし、子どもの場合はアトピー性皮膚炎も疑ってみる方がいいでしょう。
爪の変化は円形脱毛症の症状の1つで、爪に小さな凹みができたり、横に溝ができることがあります。
また、円形脱毛症は再発が多いのも特徴です。
自然治癒もあるが治療は早く始める
円形脱毛症は、帽子をかぶったりウィッグを利用して他人に気づかれないようにできます。子どもの場合は、そばにいる大人が隠す方法を考えてあげましょう。頭髪の疾患は目立つものです。友達にからかわれないように、気遣ってあげたいものです。
人目につきやすい円形脱毛症の治療は、早く始めるに越したことはありません。円形脱毛症に気づいたら、すぐに皮膚科に行くことをおすすめします。
脱毛しているのが1カ所だけの単発性の場合は、数カ月の間、ただ様子を見ているだけで自然に治ってしまうことが多くあります。ただし、再発することが多いので症状がなくなってからも注意が必要です。
治療がうまくいけば髪の毛は復活する
円形脱毛症は、皮膚や毛包に対する治療と合わせて、原因となっている自己免疫疾患の治療の必要があります。
ただ、症状が軽ければ、治療が不要なことも多く、ほとんどが自然治癒します。
症状が広い範囲に出ていたり、脱毛が何年も続いていても、髪の毛の元の細胞(幹細胞)がたいていは残っていますので大丈夫です。
免疫細胞の攻撃を抑えることができて、毛包の炎症がおさまれば、成長期の毛包に戻ります。
また、治療の途中で毛包が自然に復活することもよくあります。そうなれば、新しい髪の毛が生えてきます。
円形脱毛症の病院治療方法
日本皮膚科学会の円形脱毛症治療ガイドラインによると、円形脱毛症の治療法は、病気が始まってからの期間と脱毛の面積によって決められるとされています。
以下が病院での治療の概略です。
・外用療法 副腎皮質ホルモン(ステロイド)、ミノキシジル、塩化カルプロニウム
・局所療法 ステロイドの局所注射、局所免疫療法、雪状炭酸圧抵療法、紫外線(PAPV)療法
・全身療法 グルチルリチン、セファランチン、抗アレルギー剤、副腎皮質ホルモン(ステロイド)
症状が始まったばかりで脱毛は小範囲
ステロイドや塩化カルプロニウムなどの外用療法や、グリチルリチンやセファランチンの内服療法で様子をみます。
狭い範囲の脱毛部で、長引くようなら、脱毛部にステロイド注射をしたり、雪状炭酸圧抵療法を用いることもあります。
雪状炭酸圧抵療法とは、ドライアイスで脱毛している部分を冷却する方法です。
治療効果がなかなか出ない場合には、ステロイドの内服をすることもありますが、副作用があるので2、3カ月しかできません。
脱毛範囲が広く症状が半年以上
かぶれを起こす特殊な薬を脱毛部に塗って、弱いかぶれ皮膚炎を繰り返して起こす、局所免疫療法を用います。
この治療法は、60%以上の有効率で、現在の円形脱毛症治療ではもっとも有効とされています。
難治なケースや小児にも有効な治療法です。治療を中止すると脱毛が再発するので、治療を繰り返さなくてはならないことが難点です。
この治療に使用する薬は研究試薬で、健康保険では認められていません。使用の際には、患者さんの同意が必要になります。
円形脱毛症のための正しいシャンプー
当然ですが、円形脱毛症と頭皮環境は密接に関わっています。
頭皮や髪の毛が不健康であれば、円形脱毛症を発症しやすく、すでに発症しているのであれば治りにくくなります。
円形脱毛症の予防や治療効果を早く出すために、頭皮や髪の毛のケアアイテムであるシャンプーの選び方やシャンプーの仕方を見直してみましょう。
シャンプーの選び方
現在市販されているシャンプーは、大きく3つのカテゴリーに分けられます。
大手メーカーから発売されているもっとも商品数の多い「高級アルコール系シャンプー」、石鹸をベースにした洗浄力の高い自然派志向の「石鹸シャンプー」、洗浄効果より頭皮ケアやヘアケアを重視したサロンなどで美容師に多く使われている「アミノ酸系シャンプー」です。
シャンプーは洗浄力をもたせるために、水と油という本来混ざり得ない性質のもの同士を結びつけなくてはならないという大命題があります。そのために、界面活性剤という成分を配合します。
価格の安いシャンプーは、洗浄成分に石油系の界面活性剤が使われ、その洗浄力の高さは汚れを除去する以外に、頭皮や髪の毛を傷つける可能性があります。
現在、育毛効果を謳っているシャンプーのほとんどがアミノ酸系で、洗浄成分に植物性のアミノ酸系界面活性剤を使っています。
アミノ酸系シャンプーの特徴
アミノ酸系の育毛シャンプーの第一の特徴は、汚れや余分な皮脂だけを落とし、頭皮や髪の毛に必要な皮脂は残すことです。
洗浄力の高いシャンプーを使っていた人には、洗い上がりが物足りないかもしれませんが、シャンプーの洗浄力はそのくらいで十分です。じつは、頭皮や髪の毛の汚れは、シャンプー剤を使用しないで、お湯だけでも落ちるのです。
アミノ酸系シャンプーを使うと、シャンプー後に頭皮や髪の毛に必要な皮脂が残っているので、皮脂の過剰分泌がなくなって正常な皮脂量が保たれます。
また、アミノ酸系シャンプーには保湿効果もあります。
円形脱毛症のような頭皮や髪の毛の問題を抱えている人はとくに、アミノ酸系シャンプーの使用をおすすめします。
おすすめのアミノ酸系シャンプー
「スカルプD」 アロエベラエキス、水溶性ツボクサエキス、イタリア・トスカーナ産のオリーブオイル由来成分配合。シリーズ共通の黒豆、青大豆、黄大豆で頭皮トラブルにアプローチして頭皮環境を整えます。
「薬用シャンプー スカルプDスカルプシャンプー オイリー」(脂性肌用) 頭皮に潤いを与えながら、アミノウォッシュで汚れをしっかり洗い流します。
「薬用スカルプD レディス シャンプー」 女性特有の薄毛や抜け毛にアプローチする成分配合です。
「チャップマンシャンプー」 配合成分が高品質で好評です。抜け毛や薄毛に悩む男性に圧倒的に支持されています。
ほかにもハーブ(ラベンダーとローズマリー)の天然成分配合で男性が使っても自然な香りの「ピュアナチュラル」、4種類のアミノ酸系アミノ酸系洗浄成分を配合した人気の「BOTANIST ボタニカルシャンプー」などがあります。
ハーブに育毛効果にも注目
円形脱毛症を繰り返していた人の中には、ハーブを使った育毛剤が症状緩和につながったという人も多くいます。
抜け毛や脱毛症に働きかける育毛ハーブは、ローズマリー、ジンジャー、マンダリン、アトラスシダーほか多数あります。
ケアアイテムとしてハーブ系の育毛剤を使うことを考えるのもいいでしょう。
正しいシャンプーの仕方
1.日常生活での髪の毛や頭皮の汚れは、ほとんどお湯で落とせます。
シャンプー剤をつける前に、お湯で十分に予備洗いしましょう。
2.手のひらに適量(直径2〜3センチくらいの球状)のシャンプー剤をとって、よく泡立てます。
3.十分に泡立ったら、指の腹を使って(爪は立てないように)、頭皮をやさしくマッサージするように、洗います。
4.すすぎます。シャンプー剤が頭皮や髪の毛に残らないように、ていねいにしっかりすすいで、洗い流します。
シャンプー剤が少量でも残っていると、頭皮や髪の毛のダメージにつながりますので、すすぎはくれぐれも十分にしましょう。
5.コンディショナーかトリートメントを、髪の表面に塗ります。髪の毛1本1本に、やさしく揉み込むようにします。
6.熱い蒸しタオルで、髪の毛全体を包んで、そのまま10分ほど放置します。
7.もう一度すすいで、コンディショナー(トリートメント)をしっかり洗い流します。
8.大きめのタオルで髪の毛を挟むようにして、水分を吸い取って、タオルドライします。ゴシゴシこすったりすると髪の毛や頭皮が傷つきますので、注意してください。軽く叩くようにして乾かします。
最後にドライヤーで、頭皮と髪の毛に水分が残らないように乾かします。
まとめ
円形脱毛症は、年齢、性別、地域などに関係なく発症します。
自己免疫疾患が引き起こす病気ですが、自己免疫疾患がどうして起こるのかはわかっていません。
遺伝的な側面もあるようです。
精神的ストレスやアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患も、誘因として考えられますが円形脱毛症との直接的な関わりはないようです。
病型は、脱毛が1〜2カ所の単発性の通常型、脱毛が3カ所以上複数の多発性の通常型、生え際が蛇行して帯状に脱毛する蛇行型、頭部の髪の毛が全部脱毛する全頭型、そして全頭型に全身の脱毛が加わる汎発型があります。
治療は全て病院で行われます。
治療法は、発症してからの期間と、発症している脱毛の範囲で決められます。
脱毛の症状がどんなにひどくても、発症してから脱毛が長期間続いていても、毛の元になる細胞(幹細胞)が残っていれば(たいていは残っています)大丈夫です。
治療がうまくいけば、新しい毛が生えてきます。ただし、円形脱毛症は、再発しやすい病気です。治っても注意深く生活し、発症に気づいたらすぐに皮膚科に行きましょう。
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