抜毛症は学童期の子ども、思春期の女性、また成人男性に多い症状で、自分の髪の毛や体毛を抜いてしまう行為が止まらなくなり、髪や体毛を失った部分があります。原因は心理的ストレスの解消が主なものですが、人によりさまざまなことがきっかけになって発症します。
抜毛症は脱毛部分の治療だけでは根本的な解決にならず、心理的な治療が必要となります。抜毛症の症状と原因、抜毛症の治療法についてまとめましたのでご覧ください。
目次
抜毛症とは
抜毛症とはただ毛を抜く行為を指すのではなく、毛を抜く行為が習慣化されることによって起こる行為障害です。
いったい抜毛症とはどのような症状なのか、またどんな特徴があるのでしょうか。
抜毛症の症状
抜毛症は髪の毛や体毛をつい抜いてしまうという行為が止まらなくなってしまい、頭部や体の一部分の毛を喪失してしまう症状です。
精神疾患の診断マニュアルDSM-5によると、繰り返し体毛を抜いて喪失してしまうこと、やめようと試みていること、苦痛を感じていること、他の症状では説明できないこと、などが基準となっています。
トリコチロマニア(抜毛癖)
以前は抜毛症をトリコチロマニア(抜毛癖)と言っていましたが、DSM-5の診断基準から抜毛癖から抜毛症という表現がされるようになりました。
トリコチロマニアは衝動制御障害に分類されていましたが、DSM-5から抜毛症は強迫性障害に分類されています。
抜毛症の特徴
欲求不満や不安な気持ちを解消するために、精神的衝動に駆られて、また自分の傷んだ髪の毛が気になって抜いてみたら止まらなくなってしまった、とちょっとしたきっかけで発症するのも抜毛症の特徴です。自分でも毛を抜くなんておかしいと思いながらも、その行為が止められないところから、強迫性障害との関係がある病気とされています。
抜毛症の人の中には、髪の毛を抜くことで頭皮が炎症を起こしてしまう人もいます。髪の毛以外にも睫毛や眉毛などを抜いてしまうケースもあります。抜毛症の悩みを抱えている人のブログ記事も多く存在し、情報を得ている人も少なくないようです。成人では抜毛症になる人は約1~2%、女性は男性の10倍発症すると言われています。
抜毛症患者は以前は子供や思春期の女性に多いとされてきましたが、最近は成人の男性にも見られるようです。長男、長女に多いとも言われています。
白髪や枝毛、切れ毛、クセ毛などの髪の毛の気になるところを最初は抜いていただけだったのが、行動がエスカレートしてしまって髪を抜く行為が止まらなくなることもあります。ただし単に白髪や枝毛を抜いているだけでは、抜毛症とは言いません。脱毛部分ができてしまうほど、繰り返し体毛を抜いてしまう行為障害が抜毛症の特徴です。
抜毛後の状態
髪の毛を抜いて頭部に脱毛斑がいくつもできてしまうことがあります。円形脱毛症と異なり、直線的な脱毛斑ができてしまうこともあります。
前頭部や側頭部は手が届きやすいので、脱毛斑ができやすいです。頭髪だけでなく、眉毛やまつ毛、手指の毛を無意識に抜くケースもあります。
抜毛症と食毛症、皮膚むしり症
抜毛症の人は食毛症を併発しているケースもあります。食毛症とは抜いた髪の毛を食べてしまう病気で、思春期の子供、妊娠、出産後の女性に多い症状です。長い髪の毛は胃の中で消化できず、腸閉塞や胃腸炎を起こしたり、手術が必要になる場合もあります。手術をしなくてはならない状態になる前に、症状の改善を目指すよう早めの治療対策を行うべきです。
皮膚むしり症は抜毛症と似ていて、くり返し皮膚をむしる行為を行うことで、皮膚が傷ついてしまっている症状です。皮膚のニキビの部分やでこぼこしている部分、また健康な皮膚でも気になってむしりとってしまうことがあります。爪だけでなく毛抜きを用いて取ろうとすることもあります。皮膚むしり症を経験した人の4分の3が女性です。
抜毛症と脱毛症との違い
脱毛症は遺伝や加齢、ホルモンの影響で毛周期(ヘアサイクル)が乱れたり、ストレスが引き金になり自己免疫疾患が原因になったりして、自然と髪の毛が抜け落ちてしまう症状です。髪の毛が弱って抜け落ちてしまう脱毛症と、健康な髪を自分で抜いてしまう抜毛症とでは治療の仕方も大きく異なります。
部分的に毛が抜けた状態になっているので円形脱毛症と似ているように見えますが、円形脱毛症だと脱毛部分の境目がはっきりしています。また円形脱毛症の脱毛部分の毛根は弱っているので、引っ張ると毛が簡単に抜けてしまうのも異なるところです。
脱毛部分が一つのみの単発型の円形脱毛症ではなく、複数脱毛部分が現れるタイプの円形脱毛症もあり、見分けがつきにくいこともあります。不安な場合は自己判断に頼らず、医療機関に相談してみましょう。
子供の抜毛症
抜毛症は学童期の子供に見られますが、子供は特に抜毛症のことを隠したがります。抜毛症の原因は心理的なストレスとも関わっているので、髪の毛を抜いたことを子供に問い詰めるような言い方は逆効果です。
利き手で抜いてしまうことが多いので、利き手の近くにぬいぐるみや何かつかみやすいものを置き、抜きたい衝動に駆られたらそれらを持たせたり握らせるようにすると、改善することもあるようです。認知行動療法でも同様のことをしています。
抜毛症の原因と対策
抜毛症は心理的ストレスが関わっているようです。抜毛症になる原因にはどのようなことがあるのか、また日常生活でも対策できることはあるのでしょうか。
抜毛症の原因は心理的ストレス
抜毛症の原因は心理的ストレスによるところが大きいとされています。
家庭での悩み、人間関係の悩みなど日常生活における精神的ストレスが重なっていくことで、また不安を紛らわすために、何となく癖毛や枝毛を抜いていたことなどがきっかけで、毛を抜いたときの安心感を得るために何度も抜く行動を繰り返してしまうと考えられます。
心理的ストレス以外の原因
また心理的要因以外にも、抜毛症では神経細胞と脳との伝達がうまくいっていないという説もあります。またマウスを使った実験では、マウスに単糖とトリプトファンを大量に与えることで抜毛行為の改善を狙ったにもかかわらず、かえって症状が悪化したり、抜毛症を発症するマウスも出てきたそうです。食生活によって抜毛症が誘発されるのではないかとも考察されています。
心理的要因と神経細胞、食生活のいずれの説も、抜毛症の原因として確定しているわけではなく、はっきりとはわかっていないのが現状です。
抜毛症の影響
毛を抜くことで皮膚を傷つけてしまう可能性があります。腕や指の毛ならまだあまり目立たないかもしれませんが、顔や髪の毛は抜いた後が目立つ上、雑菌が入って炎症を起こすこともあります。脱毛斑が目立つほど精神的にもショックを受けてしまいます。
また抜毛症の症状や行為自体を人に知られたくなく、人を避けるようになることもあります。やめよう、やめようという気持ちがストレスになって、また注意されることで精神的に追い詰められてしまうこともあります。
抜毛症の対策
枝毛や白髪など、髪の毛そのものが気になってしょうがない場合は、カットしたりカラーすることで気にならないようにしましょう。またついつい髪をいじる癖があるという場合は、髪を触りたくなったら何が別の物をつかむようにするという方法もあります。明らかにストレスの多い生活環境であれば、思い切って生活環境を変えるということも改善につながるかもしれません。
症状が進んでいる場合は精神科や心療内科に相談を、薄毛そのものの対応に皮膚科での薄毛治療も必要になる場合もあります。髪の毛が生えてくるまで部分ウィッグで対応することもできます。
抜毛症と強迫性障害
強迫性障害は、何らかの考えに取りつかれて、何かをしなくてはいけないという強迫観念、強迫行為が特徴的な病気です。抜毛症もDSM-5では強迫性障害の一つに入っていますが、一般的な強迫性障害との相違点もあります。抜毛症と強迫性障害の関係性について、どのような共通点と相違点があるのか確認しましょう。
強迫性障害と不安障害
強迫性障害はパニック障害や社会不安障害、混合性抑うつ不安障害と同じく、不安障害の一つです。
強迫観念が繰り返し起こり、その不安を解消するために意味のない強迫行為を繰り返してしまいます。
強迫行為
強迫性障害は強迫行為と強迫観念が特徴的な症状ですが、強迫行為は何度も手を洗ったり鍵を閉めたかを確認したり、繰り返し同じ行為をするものです。強迫行為によって不安を一時的に解消できるという点で、抜毛症の髪を抜く行為と似ています。
強迫行為自体を自分自身おかしいと感じつつ、繰り返し行ってしまう行為を止めようとするけれど止められない、というところも共通しています。
強迫観念
強迫観念とは自分自身でもおかしいとわかっていても、ある考えやイメージがくりかえし浮かんでしまうことです。人を傷つけてしまうのではないか、または自分が傷つくのではないかと異常に恐れたり、暴力的な場面が頭に浮かんで離れなくなったりします。
抜毛症の場合はこのような観念はなく、むしろ無意識に行為を繰り返してしまうというのが普通の強迫性障害と異なる点です。
抜毛症の精神科での治療法
抜毛症はまず髪を抜くという行為を止めるようにしないといけないため、心理療法や薬物療法での治療が必要です。
認知行動療法
認知行動療法(CBT)はものごとに対する考え方の癖を気づかせることで、行動の改善を促す心理療法です。精神科、心療内科などで行われています。
ハビット・リバーサル訓練(HBT)は、問題になっている行動と逆のことを行う方法です。抜毛症の場合は髪を抜きたいという衝動に駆られたとき、どんな気分なのか気づいたことを記録します。そして髪の毛を抜きたくなったら、手のひらや別のものを握ったり、脇の下を閉じることを数分続ける訓練を日常生活でも行います。HBTでは家族のサポートも必要です。
その他にもアクセプタンス・コミットメント・セラピー、弁証的行動療法も有効とわれています。認知療法は以前は費用がかかりましたが、現在は保険適用となりました。またアメリカには抜毛症支援団体(TLC)があり、自分で抜毛症をコントロールするための自助プログラムを作成しているそうです。
薬物治療
抜毛症は不安障害の一つである強迫性障害の一種として捉えられていますが、薬物療法でも不安障害でよく使われるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)が薬物治療に使われます。
SSRIはシナプス(神経細胞間の接合部位)における、セロトニンの再吸収に作用するお薬です。セロトニンが不足するとうつや更年期障害、PMS、不眠症などを引き起こすと言われています。うつ症状に効く薬は副作用も多く、薬の相性もあるので薬を飲めばすぐ完治とはいきません。認知療法でも薬物療法でも治療開始から完治するまでには時間がかかります。
抜毛症の脱毛・薄毛改善治療法
認知療法や薬物療法は根本的な心理的要因にアプローチしてクリアしていく療法ですが、髪を抜き過ぎた結果、脱毛症と同じように部分的に髪が抜け落ちてしまった状態でショックを受ける人も多いでしょう。
一時的にウィッグで対策することもできますが、早く失ってしまった髪の毛を取り戻したい場合、脱毛症・薄毛治療を希望する人もいます。
皮膚科的治療
髪を抜きすぎて頭髪全体が薄毛状態に、また円形脱毛症のように脱毛部分が目立つようであれば、皮膚科の薄毛治療、また美容外科での植毛で対応できる場合もあります。いわゆるAGAとは異なるので、AGA専門のクリニックなどでは対応できないかもしれません。AGAの場合は毛周期が乱れてしまっていますが、抜毛症のほとんどの場合は健康な毛周期なのに髪を抜いてしまっているので、状況が異なります。
円形脱毛症にも対応しているようなHARG療法や植毛、また家で育毛剤を使うなどの方法も考えられますが、いずれも時間がかかります。抜毛症は脱毛症とは異なるので、脱毛治療をしなくても時間が経てば髪の毛が生えてきます。部分ウィッグなどで対応するという手段もあります。
鍼灸治療(針灸治療)
抜毛症に鍼灸(針灸)治療も効果的とされています。25年も抜毛症の治療に当たっている、蘇我庵中国鍼灸院(東京・銀座、埼玉・大宮)では抜毛症の治療で効果を上げているそうです。院長先生はブラックマヨネーズの小杉さんの治療にもあたったそうです。独自の電気針治療法を用いて、多くの抜毛症患者さんの薄毛治療にあたり、発毛の効果があったようです。電気針治療法は皮膚の特殊なツボに鍼を打ち、電流を流す方法です。
まだ治療を受けていない抜毛症治療の患者の方からの治療相談をされることも多いようで、相談内容と、鍼灸院からの回答もホームページ上に掲載されています。通ってみたいけれど不安もあるという方は、一度確認してみてはいかがでしょうか。
薄毛の改善方法
抜毛症の人は元々髪は健康であるケースが多いと思われます。抜毛行為そのものの改善を心理療法で改善しつつ、薄毛、脱毛部分の毛が生えるようにしないといけないでしょう。広い範囲でなければ生えてくる髪を待つという方法もありますが、少しでも髪に良い生活習慣を送って、薄毛改善をすることも必要でしょう。
抜毛症はストレスが原因になっていることが多いので、ストレス解消は重要な課題でしょう。体を動かしたり、ストレスを上手に発散させる方法を見つけて、精神的に安定して、日々気分良く生活を送れるようにしたいところです。
薄毛改善には規則正しい生活や食生活、また血行を良くすることも重要と言われています。睡眠不足にならないよう夜更かしをせず、タンパク質やビタミン、ミネラルをバランス良く食事で摂取することで、健康な体のベースを作ることができます。適度な運動や頭皮のマッサージをすることで血行が良くなりますので、日々の生活に取り入れてみてください。
まとめ
抜毛症は髪の毛や睫毛、眉毛、また手指の毛などの体毛を抜く行為を繰り返し続け、体毛を部分的に失ってしまう症状です。国際的な精神疾患の診断基準であるDSM-5では、強迫性障害に分類されていますが、厳密には全く同じものではなく、強迫性障害のような強迫観念のないところが異なります。
抜毛症の原因は心理的ストレスと言われていますが、はっきりとは解明されていません。ささいなことがきっかけで抜毛症になることがあります。治療法には薬物療法や薄毛改善のための鍼灸治療もありますが、行為を止めるための心理療法が中心になります。
認知行動療法では自分の抜毛行為を意識し、行動をコントロールする訓練を行う心理療法の一つです。毛を抜きたいという気分になったら、わきの下を閉じたり物を握ったりします。治療には家族のサポートが必要です。
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